2014/02/08

QP





【story】

拳を壊して志半ばでボクシングチャンピオンの夢を諦めた美咲元は、ある日、天狼会のボスの吾妻涼に出会う。人並み外れたオーラを放つ涼に一目で憧れを抱いた元は、すぐさま天狼会のドアを叩く。そして、涼から世話役として紹介されたヒコを兄貴として慕うようになっていった。

そんな最中、この地域で幅を利かせる横溝組と天狼会、そしてその様子をさぐる古岩組。均衡を保っていた3つの組が、徐々にバランスを崩していく・・・。

次第に明らかになる涼、トム、ジェリーの過去。夢や野望を実現させるためなら手段を選ばない者たちが見せる生き様。誰もが分かるものではない、修羅場を経験した者だけに結ばれる絆。窮地に立たされたとき、暴力の世界に身を投じた男達は何を選び、そしてどう生きるのか・・・。



【cast】

我妻涼:斎藤工

トム:金子ノブアキ

ジェリー:渡部豪太

美咲元:林遣都

マリオ:KENCHI

エイジ:窪田正孝

君塚亮輔:渡辺大

蜂矢兼光:やべきょうすけ

ヒコ:田口トモロヲ

喜多嶋仁:椎名桔平



【staff】

原作:高橋ヒロシ

脚本:NAKA雅MURA

総監督:三池崇史

監督:渡辺武、菅原伸太郎、矢部享祐



※ネタばれあり





ドラマにハマるのは『ホワイトクリスマス』以来です。と云う事で前みたいに纏めていきます。





①ストーリー

漫画の『QP』が原作ですが、その話ではなく番外編の更にその中の一話を広げた話がこのドラマの元になっています。そして、このドラマを元にした漫画も『QP外伝』という名前で作られているという。そもそもQPっていうのはキューピー人形みたいな石田小鳥という人が主人公だからと云うのが理由なのですが、ここらへんは全然関係ないです。でも、この小鳥の影を匂わせる演出はあります。

戻ります。前述したように、天下を目指す我妻涼とその下に居るトムとジェリーが三本柱で、その姿に憧れた美咲元とその兄貴分ヒコがどうなっていくのかというところが物語の大枠です。ストーリーとしてはとてもシンプルで、圧倒的な強さとそれに憧れる若者、更に信頼と裏切りというようないかにもVシネっぽいヤクザドラマです。本当にそれだけなのですが、やっぱりここまで惹きつけられるのはキャラクターと演出にあるのだと思います。



大きなポイントの一つである台詞。脚本家のNAKA雅MURAは『46億年の恋』『スキヤキウエスタンジャンゴ』『どろろ』などいくつか脚本を書いてきていますが、主に三池監督と組むことが多いようです。昔は難しい人だったらしく、その独特な脚本なので好き嫌いが分かれるのではないでしょうか。斯く言うわたしは大好きです。



  「なあ、自分。わしが死んだらちゃんと泣いてくれるか?」

  「どやろ。けどまあ、お前は泣くやろな わしが死んだら」

  「当たり前やんけ、自分は泣きひんのかいな?」

  「後追いはするかもしれへんけどな。お前はそうはせえへんやろ。

   散々大泣きはしても、泣いたらしまいや。

   あとは一人でも生きていける。」

  「そないなことあらへんがな。

   ゆうか、なんやそれ。わしの方がごっつ冷たいやつみたいやんけ」

  「どっちもどっちや」



この会話、トムとジェリーの会話なんですけどね、原作にあるか全然分かりませんがとってもNAKA雅MURAっぽい台詞回し。そしてこの言葉を何度も子役に繰り返させるのは三池崇史っぽなと。完全に偏見ですけど。この二人の関係性については後で書きます。



②サブタイトル



内容を暗示させるようでわからない加減が良い。



  ロードランナー(美咲のこと)

  カーブミラー(美咲の幻影)

  サマー・トライアングル(美咲の兄の星)

  ウルトラメンソール(我妻が握りつぶす煙草)

  ラッキーナンバー(喜多嶋の数字)

  シマブクロ(殺し屋の名前)

  クロスロード(美咲が走る交差点)  

   ファイヤーフライ(トムとジェリーの夢)

  AV(登場人物)

  ブルームーン(我妻の背景) 

  ラビットフット(トムの幸運のお守り)

  ウィンター・トライアングル



大きな意味はないのだけれど後で見返してハッとするタイプのアレです。





③登場人物



我妻涼:斎藤工

まず、あまりこの俳優さんに良い印象を持っていなかったのですが、とても良かった。元々、我妻という人が喉を撃たれて声が出ないという役柄だったこともあり、殆ど言葉を発せず、硬派な感じを貫いていました。

個人的に我妻涼についてはいろいろ考えました。考えても考えが及ばない気がして、そんなものですけどね。両親を亡くして祖父に育てられた我妻は祖父の愛情を受けて育ちます。そんな風に普通に育てられれば、不良になることもないだろうにと思いますが、そんなことは実際は理由にならない。単純に我妻は圧倒的な力と悪の純粋さに引きずり込まれて、その世界で生きることを望んだだけの話。死の間際、我妻の祖父もそれを気付いていて何も言えなかった。そしてこの言葉。

 

  俺は、流されてるゴミみてえにこの世界にいるんじゃねえ。

  俺は、俺の意思で今こうしてここにいるんだ。

  だからお前がなんて言おうと、もう戻れねえし、戻る気もねえ。

  これが俺の生き方なんだ。



恐らくこの言葉は石田小鳥に対して言っているのでしょう。我妻は自分自身を完全に客観視できる人間であり、でも周囲から見ればそれは冷酷な人間の姿でそれをみんな恐れています。そして我妻自身も、誰も信用できなくなった自分が怖いのだと思います。トムとジェリーのことだって信じたかったし、銃撃戦の直前までは少なくともそれ以外の人間よりは信頼していた筈。でも、我妻は二人絆の強固さとそれから派生する弱さを知っていた。同時に一種の疎外感のようなものを感じていた。そして、裏切った人間には徹底的に残酷なってしまうのは、そうしないと自分の生き方を根底から否定することになってしまうからなのかと。本当に信頼できる人間、仲間、安全な場所そういうものを心のどこかで求めていたのだとは思いますが、それ以上に「生き残る」という意思が大きく生き方に関わっているのだろうと思います。



トム(ユキオ):金子ノブアキ

総てはタカヒロ(ジェリー)と自分の幸せの為に生きている。泣き虫。前述した台詞のようにユキオはとても感情が表面に出るタイプで、唯一の弱点はタカヒロ。もしユキオ一人であれば、我妻の圧倒的な力を信じて行けたのかもしれないけれど、そんなまだ可能性のある未来よりも、タカヒロが大切でなんとしてもはやく夢を叶えたい一心で我妻を裏切ってしまう。



ジェリー(タカヒロ):渡部豪太

ユキオと共に孤児院で育ち、そこの院長に性的虐待を受けて殺害。逃げるようにしてユキオと二人で生きてきた。感情を表に出すことが少ない。病気で余命半年から一年。タカヒロ自身は我妻を客観的に見ていて、「自分以外誰も信用しない人間」というのも理解はしているけれど、同時に完全に従えばこちらが信頼出来る人間だということも分かっている。でも、それ以上にユキオの言うことが優先されるのはそれ自体が人生そのものだから。「我妻を殺せ」という仕事を受けるとユキオに言われた時、タカヒロは寿命よりはやく死んでしまうかもしれないと覚悟している気がしてならない。それだけ我妻の強さと自分たちの弱さを知っているタカヒロだからこそ悟ってしまってからがとても切ない。



  なあ、自分 何でもかんでもひとりで頑張りすぎやで

  いっつも、一緒にやったらええやんけ、な、タカヒロ



この部分はほとんど回想ですが、なんていうか結局殺し屋という仕事をするには面倒な相棒を持ってしまったということなのかなと。



美咲元:林遣都

主人公かと思いきや、ただのヘタレで、戻って来るのかと思えばそうではなく、自分は一般人だったと気がついたことが幸せということなのでしょう。でも、美咲のお陰で、我妻達の生きる世界がどれだけ厳しく、冷たいところかということがはっきりしてきます。



マリオ:KENCHI

ブラジル系イタリア人はただの癒し。



エイジ:窪田正孝

このQPのドラマの感想を調べるとだいたい窪田正孝のファンブログだったりします。今までそんなに興味がわいたことのない俳優さんでしたが、今回とても良かった。街唯一の情報屋で金さえあれば小間使いのようにちょこまか動くミニクーパーの持ち主です。頭も切れて、我妻に取り組もうとしますが、結局使われることに。美咲が犬ならエイジは猫ですね。明らかに。



君塚亮輔:渡辺大

裏ボスの裏。



蜂矢兼光:やべきょうすけ

三池作品の常連の一人、やべきょうすけ。このドラマでは監督も務めています。彼のキャラクターがよく出た蜂矢兼光という人間は、「ヤクザさん」とカタギに呼ばれるような人望の厚い人間で、他の組の人間にも世話を焼くような人。状況を一番把握しているのは彼なのかもしれませんが、何もしないのは生き方に大きく起因しているのかもしれない。



ヒコ:田口トモロヲ

美咲の兄貴分で大酒飲み。喧嘩も強いが、我妻を信用できないと組を抜けようと思っていたところ事件が起きる。本当に鉄砲玉になってしまって、ヒコの過去についてはついにわからないけれど、大酒飲みになったのにもそこに理由がありそう。



喜多嶋仁:椎名桔平

裏ボスでしかなかった。



④音楽



まず主題歌でOPはレニークラヴィッツ、挿入歌はSong Riders、エンディングはマキシマムザホルモン。それ以外の挿入歌、所謂サントラもジャズであったりロックであったり、映像をより効果的に、カッコよくみせている。個人的には、ホルモンが毎回良いところで流れるので良い。











三池監督の映画が好きな人なら恐らくハマるドラマだと思います。斯くいう私はDVD(プレミアBOX)を買いました。




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